天女
待機場は蒸し暑く、扇風機ががなる音だけが響きました。
ペラペラのワイシャツのタグにいるうさぎが、この部屋の噎せるような匂いを嘲笑い、毒々しいピンクの下着が、私を締め付けて離しませんでした。
店のコスチュームを、天女の羽衣みたい、と笑ったあの子は、繁華街のネオンの中に溶けてしまって、すっかりもうどこにもありません。
夏の暑さの夢でありますように。
助けてください
壊して欲しい、誰か助けて欲しい、愛して欲しい、セックスは手っ取り早くて、だけどずっと虚しくて、誰といても何を話しても満たされない何かが、どうしたら救われるのか、一生分からないまま苦しくて苦しくて仕方がない。女から、降りたい。男になりたい訳じゃない。ただずっと感じてきた疎外感。男と女と、深い隔たりの向こうに行きたい。女であることがコンプレックスだった。今もそう、性欲への嫌悪感は人一倍強いくせに、いつまでたっても降りられない。自分の体がゴミのように思えるのに、自分の女性性にしか価値を感じられない。綺麗でいたい。愛されたい。中に出して欲しい、そうしてずっと抱きしめて欲しい。違う、違うの。そのたびに自分が嫌いになる。朗らかに笑いながら女であることへの恩恵を受けて何も思わない、世の中の女の子たちが憎くて羨ましくて、どうして苦しくないのか、どうして笑っていられるのか、どうして自分を嫌いにならないのか、分からない。ただ、魂と魂で愛し合いたい。どんな姿かたちでも愛し合いたい。もっと向こうに行きたい。この体からは出られない。助けて。助けて欲しい。死にたいよ、辛いよ。汚い汚い汚い。
02
いつも綺麗な言葉しか使わないあなたがひどく貶したあの人を、心底羨ましいと思った。いつだって、そういう存在になりたかった。世界の端っこにずっと居るみたいな疎外感は、あなたの目に映ることでなんとか飲み込めたはずなのに、私はその瞳の端にいることを知ってしまった。綺麗な、本当に綺麗なアーモンドみたいな目。弓なりのカーブから生える下向きの睫毛。左右対称の大きな目。あの人を見つめているときだけにする、歪な目。
あなたの首を絞めた時、あなたは抵抗するでも無くただ困った。困惑と戸惑いの目は、それでも相変わらず綺麗でまっすぐで、そんなあなたが心底、憎いと思った。
2023/08/18
黒い感情に包まれた時、夢を見ればいい。それが本当に黒いのかどうかは見たことが無いから分からないけれど、ただ、時々「明日起きたら首を吊ろう」と思う。淡々とドアノブにベルトを引っ掛け、「これじゃあ不安だから朝になったらロープを買いに行こう」と考えながら布団に入る。至って冷静に、日常のルーティンのひとつのように。しかし起きればそんなことは忘れ、また同じような夜が来ると思い出す。そこに苦しみや悲しみが無く、夢を見れば忘れられる為、私たちは共存ができている。
死神が鎌を服の襟にひっかけているような、そんな感覚。受け入れれば何も傷つきはしないし怖くもないのだ。
むしろ、豊かな感性の副作用と思えばそんな感情も愛おしい。身の回りの全て、溢れる創作物、誰かの強い感情、をじっくり深く見て考えて愛している。それが時たま希死念慮となって消化される、それだけの事。
だ
死にたいと思った。自分の矮小さに嫌気が差した。いつの間にか21になってしまった。もう子供じゃいられないのに、いつまでも駄々っ子のように拗ねている。こんな時、未だに自分を傷つける事でしかやり場のない気持ちを抑えられない。子供だ。肉体の苦痛は精神の苦痛を和らげてくれるということを学んだ10代から何も成長していない。鏡に映る醜い化け物を殺してやりたい。そうしたらつるんと皮が向けて綺麗な何かに生まれ変われる気がするから。死んだらもっと醜い姿になるしかないのに。呼吸の度上下する胸が、汗ばむ体が、針を刺すと流れる血が、命を実感させる。現実で霞む脳内に響く痛みだけが気を紛らわす。明日も明後日もその先も繰り返す日々が終わるまで戦わなければならない。小さな小さな器にはもう水がいっぱいで、溢れ出てしまいたくなる。そんな衝動と戦わなければならない。憂鬱は素直に喉を通り体に詰め込まれる。もう何度もそうしてきたように。でも知らないふりをしてやり過ごす。そういう戦い、いつまでも。
真夏
カラコンを入れる度に目の表面に傷がついた。最初は度なんて入ってなかったのに、気づけば度数は上がっていって、今じゃもう裸眼では何も見えない。
かわいくいなきゃ、の呪いは視力も感情も処女も全部全部奪っていった。
私がドン・キホーテの入口でタバコを吸ってるとき、君はもう寝てるのかな。
安っぽいネオンライトに照らされて、高く結んだツインテールの毛先が酷く傷んで見えたの。
看板の顔が私を嘲笑っていて、それがどうにも許せなくて、私、私。
汗と精液と憎悪の混じった匂いに噎せそうになりながら、ラブホテルの小さな部屋で君の笑顔を思い出す。
私もう汚れちゃったから、君に指一本も触れられないけど、いつか大きな花束を作ってあげたい。
生まれ変わったらきっと、朝日に照らされる葉露のキラメキの中で生きれますように。なんて、無理かな。